「栄養の日・栄養週間 2022」市民公開講座「栄養の日・栄養週間 2022」市民公開講座

第43回 健康づくり提唱のつどい
「サステナブルに食べる」と腸内環境の熱い関係

8月1日(月)、「栄養の日」のスペシャル企画として開催された市民公開講座「第43回健康づくり提唱のつどい」。第1部では、「サステナブルに食べるってどういうこと?」をテーマに、タレントの高橋みなみさん・日本栄養士会の鈴木志保子副会長、MCの川口あいさんが、日々の食生活、自身の食事の悩み、そして栄養への期待などについて語られました。
第2部のテーマは「“サステナブルに食べる”と腸内環境の熱い関係」と題して、乳酸菌飲料ヤクルトでおなじみの株式会社ヤクルト本社学術広報担当の有馬直美課長をゲストに招き、腸の健康についてトークしました。腸内環境の重要性や、腸と脳の意外な関係性、食事の大切さなどの興味深い話を聞くことができました。

腸内環境と腸内細菌

画像①左:株式会社ヤクルト本社学術広報担当 有馬直美課長、
右:鈴木志保子副会長

「最近は“腸活”がよく聞かれるキーワードになっていますよね」と川口さん。
鈴木副会長は、「胃とか小腸も含めて、運動量を確保してあげる。食物繊維を摂って、腸の運動を良くする。その食物繊維を好むのが乳酸菌…と、トータルに活かせる色々な知識があるのですが、皆さんなかなか使いこなせていないですね」と鈴木副会長。
「便秘改善には何よりもまず、水ですね。油の摂取量が少なすぎるパターンも。何でも少なければいいっていう、日本の今の感覚は変えたいですね。そもそも栄養素は、生きるために絶対的に必要なものだけを栄養素って呼ぶから、脂質とか糖質も栄養素だから、無くてもいいもの、少なければいいものではないのです」
さらに、改めて消化吸収の大切さについて鈴木副会長が話を続けます。「消化吸収って本当に大切。栄養価は目の前にある食品ベースで考えられがちですが、食べた後、本当に自分にどれぐらいできているか、どれくらい吸収されているかによって、私たちの体で使える栄養素の量が決まってきます。そこまで考えて栄養管理をしたいというのが、管理栄養士たちが考えていることなのです。」

ここで消化吸収に重要な役割を果たす腸内細菌について有馬さんから解説されました。
「人の腸にはおよそ1000種類、約100兆個の菌が住みついています。人の消化管の中でも小腸下部から大腸にかけて、腸の内容物の通過速度は非常にゆっくりで、酸素もほとんどありません。腸にはこのような環境を好む細菌が多く住んでいます。そしてこの細菌というのは、互いに影響を及ぼし合いながら、仲間同士で群れをつくって住みついています。その様子が色々な種類の植物が群生しているように見えることから、“腸内フローラ”と呼ばれています。」
「腸内フローラというのは、私も何度か聞いたことがあります。先ほど聞いてビックリしたのですが、ほとんど酸素がないような状況なのですね」と川口さんから驚きの声があがります。
「写真を見ると、ほんとキラキラで綺麗なの!」と鈴木副会長。

「腸の中は人の体温によって温度も一定に保たれています。仲間同士で勢力争いをしながら、腸の中に住んでいるようなイメージです。そこに住みついていれば人間が食べたものがそのまま腸にやってくるので、腸内細菌は餌としてそれを利用することができます。腸内細菌は自分の栄養を人が食べたものから取り込みながら、腸の中で色々な物質を作り出します。その作り出された物質が人によって好ましいものか、そうでないかによって、われわれ人間は腸に住む菌を良い菌と呼んだり、悪い菌と呼んだりと区別しています。
良い菌というのは、オリゴ糖や食物繊維といった人が消化しにくい物質を食べて、それで腸の中で乳酸や酢酸などの酸を作り出します。酸というのは悪い菌が増えるのを抑えてくれたり、腸が吸収してエネルギー源に利用したりしますし、腸の動きもよくなります。良い菌はそういった酸を作ってくれる菌のことを言います。」と有馬さんが解説しました。

さらに有馬さんの解説は続きます。「人の腸の中には、健康の維持増進に関わるような乳酸菌やビフィズス菌だけでなく、体を蝕み、病気の原因となるような悪い菌も住み着いています。“腸内フローラのバランス”という言葉を聞くことも多いと思いますが、腸の中の良い菌を優勢に保つことで、悪い菌の増殖を抑え込むこと、これが腸内フローラのバランスを保つことだと考えると分かりやすいと思います。腸内フローラのバランスが崩れるというのは、有用菌、すなわち良い菌が減ってしまって、悪い菌が増えてしまった状態をいいます。さまざまな要因で腸内フローラのバランスというのは、崩れることが知られています。年齢のように逆らえないこともありますが、やはり日々の食事が重要です。「偏った食事やストレスなどは腸内フローラのバランスに影響を与えることが知られています。」と食事の大切さにもふれました。

腸と脳の関係性

画像②

「腸内フローラのバランスが悪くなっていくと、実際に体にも悪影響があるということなのですね。」と川口さん。さらに、有馬さんからは腸内フローラのバランスが悪くなっていくと体にも悪影響があること、そして腸と脳の意外な関係性についても語られます。

「腸は食べ物を消化して、栄養素を吸収する大事な場所です。また腸には体の外からやってくる外敵から体を守る細胞が体全体の半分以上が集まっている。腸は免疫をつかさどる器官としても知られています。腸というのは神経細胞の種類も数も多い独自の神経ネットワークを持っていて、腸と脳は免疫系や神経系、そしてホルモンなど内分泌系という仕組みを通じてお互いの情報を交換しあう関係にあると言われています。この仕組みが“脳腸相関”と呼ばれて、今とても注目されています。
脳がストレスを感じるとお腹の調子が悪くなるという経験があると思いますが、実は腸の調子が悪くなると、その情報が腸から脳に伝わって、不安な気持ちが増すことも分かってきました。腸は身体だけでなくて、心にも影響を及ぼす重要な働きをする器官です。この考えに基づけば、腸に多く住む腸内細菌との関係を良好に保って、腸内環境を維持することは、腸から脳に良い情報が伝わり、心の安定にもつながるというふうに考えられます。日々の食事というのは、腸のコンディションを整えることのみならず、心のコンディションにも影響を及ぼすということがお分かりいただけるのではないかと思います。」

これまでの有馬さんの話をうけて、「とても衝撃的なお話でした。腸と脳、心との関係性という点、非常に興味深いです。自分自身を振り返っても、確かにと思う経験があります」と川口さんが驚きの声があがりました。
鈴木副会長からは、「食べられなくなるというのは、脳にとっても悪い影響があります。どんな状況でもきちんと食べておくことが基本です。仕事などが忙しくて優先順位はあるとしても、やっぱり食べておかないと。普通にきちんと食べるということが、一番サステナブルな生活です。」と、食事の大切さについて改めて言及されました。

注目される乳酸菌

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「先ほどから出ている“乳酸菌”というキーワードについて、有馬さん詳しく教えていただけますか」と川口さん。
「乳酸菌というのは、乳糖やブドウ糖を栄養源として増殖し、乳酸という酸をたくさん作る細菌のことをいいます。昔から食品の味や保存性を高めるために利用されてきましたが、人の健康維持に役立つ働きを持つ選ばれた乳酸菌も存在し、注目されています。
プロバイオティクスという言葉を皆さんも聞いたことがあるかと思います。WHO(世界保健機関)など世界的には『十分量を摂取した時に人などの宿主に有益な効果を与える生きた微生物』と定義されており、人の健康に役立つ乳酸菌やビフィズス菌について研究がされています。そのような菌を食品として利用できるようになっていますので、ぜひ活用していただければと思います。」と有馬さんが解説しました。

「鈴木さんがおっしゃるように、普段の食生活でそういったものを取り込んでいくのは大事ですよね。」と川口さん。
「まずは、ちゃんと食べる。それともう少し気をつかう。ストレスをどうこうすることはできないので、ストレスがかかるのは承知の上で、自分にとって何ができるのかなとか考えてほしいですね。そこまで行くと自分のライフスタイルを守っていけますね。」と鈴木副会長が話します。
「腸というのは、栄養を吸収するとても大事な場所です。栄養をしっかりとる上で、腸というものを見直すきっかけになればと思っています。」と有馬さんがまとめました。

「腸内環境、乳酸菌の大切さ、本当によく理解できました。私も日々気をつけて取り入れていきたいなと思いました。」と川口さんの言葉で市民公開講座は終了。
「サステナブルに食べる」をテーマに、第1部では日々の食生活における“サステナブル”な食生活について、第2部では腸内環境と“自分自身のサステナブル”について、さまざまな話が聞けるトークイベントとなりました。

第1部「“サステナブルに食べる”ってどういうこと?」のレポートはこちら