特集
水野裕子と学ぶ、スポーツ栄養学って何?②(前編)プロ選手が驚きの変化
- 監修
- 鈴木 志保子
- 撮影
- 相良博昭
- テキスト
- 江原めぐみ
- 撮影
- 相良博昭
2017年11月16日[2018年04月11日更新]
20年前に比べて選手の体脂肪が安定し、選手自身が食事の話をするようになった水野:F・マリノスのサポートにつき始めたときと現在で、選手たちのコンディションはどのように変わりましたか? 橋本:20年前に比べたら、体脂肪率の増減はずいぶん安定しました。昔は体脂肪率が高い選手とものすごく低い選手と両極端だったんですが、いまはプロサッカー選手の体脂肪率の目安である12%前後を維持している人がほとんどです。 また、以前はアルコールとパフォーマンスの関係についての情報が少なかったので、お酒が好きな選手はアルコールを飲んでしまって、体脂肪が減りにくいということがありましたが、いまはアルコールを飲む選手も少なくなりました。 水野:目に見えて効果が表れているんですね! 橋本:もちろんスポーツ栄養士がサポートしたからといって、必ずしも体脂肪率が下がる、怪我が減るとは言い切れません。けれど、その状態に近づけることはできますよね。 また、数値には現れませんが、「栄養士がすすめているから、このメニューは安心」とか、「栄養のセミナーを受けているから大丈夫」という具合に、選手が自信を持ってサッカーに集中できる保険のような役割も果たしているのかなと感じています。選手たちが当たり前のように食事の話をしたり、メニューを考えて選べるようになったりしているのも、とても大きな成果だと思います。 水野:長い時間をかけて取り組まれて来たからこそですね。 橋本:そうですね、続けることは本当に大事です。栄養サポートって単発の依頼が多く、1年契約にも至らないことが多いけれど、結果を求めるには2、3年かかると私自身は考えています。専属契約のスポーツ栄養士なら、選手と一緒にいながらマネジメントできますが、そうではないケースがほとんどですからね。 私の場合はF・マリノスをサポートし始めてから19年になりますが、これだけ長い間、スポーツ栄養士を採用しつづけてくれるケースはなかなかないです。ありがたいことですね。 水野:長期的に継続して契約してもらえるコツなどはあるのでしょうか? 橋本:栄養は薬のようにすぐに効果は出ない、ということを、まずはクラブに理解してもらうことですね。クラブ内には、フロントや監督、コーチ、トレーナー、ドクターと立場や考え方の異なる人たちがいますが、私がここまでやってこられたのも、食と栄養の大切さを理解してくれる人たちが大勢いたからです。 1人でがんばって「私はこれだけやりました」と言うのではなく、周りの人に働きかけて、自分の味方をチームのなかに増やすことが大切なのだと思います。そうすれば、自ずと来年も栄養サポートが必要だよねと言ってもらえるのではないでしょうか。 水野:それも、やっぱり人間力ですよね。 橋本:そうですね。スポーツ栄養士の仕事が理解されない一つの理由は、自分たちのやっていることをきちんと社会にアピールできていないというのがあると思います。「私たちこんなにやっているのにどうして理解されないの?」と言う人もいるけど、もっと積極的に伝えていく努力が必要なのではないかと思います。 『東京五輪』に向けて、海外の食文化や習慣、食材を意識して学ぼう水野:ほかにもこれからの時代、スポーツ栄養士に必要なことはありますか? 橋本:いまのスポーツの世界では、海外遠征や外国のアスリートが日本でプレーするのも当たり前の時代。食文化や習慣、宗教上食べられない食材なんかも海外と日本では違いますから、『東京五輪』に向けて、グローバルな視点でスポーツと食について知識を深める必要があります。 たとえば、海外のアスリートの間では、ベジタリアンやグルテンフリーを実践するのは珍しくないこと。日本にいる外国人選手からも、この2つに関しては質問をされることが多くなりました。 学ぶべきことはたくさんあるので、若い栄養士さんやこれから栄養士を目指す方には、学校以外の勉強も積極的に取り組んでほしいです。そういう意味では水野さんは海外に行く機会も多いみたいですし、他の人が経験できないことをされているので、どのようなアドバイスをされるのかが楽しみです。 水野:最近もインドネシアの、電波のつながらない島に3週間近く滞在していました(笑)。ありがたいことに私はいろんなところに行かせてもらっているので、管理栄養士になれたらその経験は生かしていけたらと思いますね。さて、まだまだ話は尽きませんが、つづきは後編にて。競技間の栄養マネジメントの違いや現代の子どもを取り巻く栄養の現状について、お伺いしたいと思います。 橋本:よろしくお願いします! |