「レシピはこうなんだよ、栄養素はこうなんだよ、みたいな堅苦しい歌にはしたくない」(おみそはん)----お二人とも栄養や食べることの楽しさを伝えようと活動されていますが、うまく伝わらないとか、苦労することはありますか? おみそはん:私はいままで料理をしてこなかった人とか、苦手だと思っている人に曲を聴いてもらって、料理を始めるきっかけになったらいいなと思っているんです。だから、なるべく簡単なレシピで伝えたり、興味を持ってもらえる情景を描いたり、そういうことは考えていますね。 「セイロでおまんじゅうを蒸すと、ほわほわっと湯気がいっぱいになって、幸せな気持ちになるんだよ」とか、普段思っていることを歌にして、料理の魅力を伝えられたらいいなと思ってます。 ----"ティラミス"という曲の歌詞を聞いて、ティラミスには「私を元気づけて」という意味の語源があると知りました。レシピを覚えるのは難しいけど、印象に残るフレーズをとおして、歌われている料理に愛着が湧くというか。 おみそはん:そう言ってもらえてうれしいです。堅苦しく「レシピはこうなんだよ」「栄養素はこうなんだよ」みたいな歌にはしたくなくて。押しつけがましいと、引かれちゃうじゃないですか。 やわらかい感じで伝えれば、「なになに、ティラミスってそういう意味なの?」と興味を持って、そこからマスカルポーネ(ティラミスの原料になるイタリア原産のクリームチーズ)の脂肪分の多さを知って、うわーって思うきっかけになるかもしれない(笑)。 「栄養について、とにかく正解を教えてください、っていう捉え方だと、間違えてしまう可能性が高い」(圓尾)圓尾:ぼくは管理栄養士なので、「YES / NO」で答えてほしいと言われることが多いんです。「これを食べたら痩せますか?」とか「これは健康にいいんですか?」とか。でも、同じものばかり食べてたら、そもそも栄養バランスが崩れるし、栄養学でまだ結論が出ていない問題も多いんですよね。 おみそはん:夜ごはん食べる派、食べない派とか。 圓尾:それぞれに栄養的な根拠があれば、どっちも間違ってないと思うんですよ。でも、とにかく結論を教えてください、どちらが正解なんですか? っていう捉え方だと、間違えてしまう可能性が高い。いまはインターネットに情報があふれているので、ちゃんと自分の頭で考える習慣をつけないと危ないなと感じています。 おみそはん:この食材がからだにいいとメディアで紹介されたら、スーパーの売場から消えるとか、大学の先生もそれがいちばん危険だといつも言ってました。「同じものばかり食べて、からだが良くなるわけないでしょ?」って。 あと、ご飯と味噌汁のある生活で健康を維持してきた日本人が、糖質制限が流行ってるから、お米は一切食べませんっていうのも、私は何か違うような気もしていますね。自分のからだが求めているもの、日本人の暮らしに合うもの、長く続いてきた食文化には、それなりの理由があるはずなので。 圓尾:管理栄養士のぼくが言うのも何ですが、すべてを科学的なデータだけで片づけようっていうのも危ないと思います。どこでどうつくられたものであろうが、いいと言われている栄養素だから食べておこうみたいな。栄養において極端すぎる考え方は疑ったほうがいいと思います。 「脳にガツンとくるおいしさと、からだの芯にじわじわくるおいしさの2つがある」(おみそはん)----栄養学を学んだお二人が、普段の食事で気をつけていることはありますか? 圓尾:いろいろありますけど、いちばんは伝統食を基本にすることですね。ご飯、味噌汁、ぬか漬けなどの発酵食品とか。食材もなるべく伝統的な方法でつくられたものを選んでいます。余計なものが入ってない、自然な環境でつくられたものは、派手な味つけじゃなくてもからだの芯からすごくおいしいと感じるんです。ぼく、「おいしさ」って2種類あると思うんですよ。 おみそはん:あ、わかります! 脳にガツンとくるおいしさと、からだの芯にじわじわくるおいしさと......。 圓尾:そうそう。ファーストフードとかも、たしかに時々食べたくなるんですけど、それは脳にガツンとくるおいしさだと思うんです。 おみそはん:脳内に何か物質がドバドバ出るような(笑)。私もシンプルにからだの芯に染みるようなおいしさは大好きです。ファーストフードも食べるけど、シンプルなおいしさも知っているので、その両方を行ったり来たりできるんですよね。過剰な旨味が詰まったものを食べたときでもそれはそれ。お楽しみとして捉えられるんです。 ----圓尾さんはご自身の本で、濃い味つけのものも普段から食べると正直に書かれていましたよね。 圓尾:食べますね。先週は外食が多かったので、お酒も飲んだし、焼き鳥も食べたし、あとはラムチョップ。締めにラーメンまで食べちゃいました(笑)。 ----管理栄養士の口から「締めにラーメン」なんて言葉が聞けるとは(笑)。 圓尾:別に健康のためだけに生きているわけじゃないですからね。だいたいぼくは1週間単位で栄養をマネジメントしています。外食でガッツリ食べた翌日は、質素な食事にしてみたり。さすがに毎日ご飯と味噌汁だけの食生活ではもったいないと思うんです。これだけおいしいものがたくさんある時代なのに。 おみそはん:我慢ばかりして、ストレスを溜めたら意味がないですしね。 圓尾:最近はオーガニックや無添加食品にこだわる方も増えましたけど、1つのことをストイックにやりすぎると、逆にストレスになっちゃう。そうしたら元も子もないので。 「いまの伝統も、最初はイノベーションだったはず。だから最近は、カレーと酒粕の融合を試しているんです」(圓尾)おみそはん:いまのお話すごくわかります。私、ちょっと音楽と料理に縛られすぎていた部分もあったなと思ってて(笑)。もともと自分の好きなことを合わせて生まれた表現なので、他の好きなことも合わせて、興味の範囲を広げてもいいなと思っているんです。 圓尾:そういう意味では、ぼくも和食や伝統にとらわれすぎていた部分があったなと思うときがありますね。いま伝統とされているものも、最初はイノベーションだったはずなんですよ。味噌汁も鎌倉時代に中国からすり鉢が伝わって、味噌を潰せるようになったから生まれたという説があって。 そう考えると、世界中の料理や文化に対して、伝統を盾に一概に受け入れないのも違うなと思うんです。だから最近は、伝統食と現代の食材や栄養素を合わせたら面白いんじゃないかと思って、カレーをスパイスからつくり始めてみているんですよ。 おみそはん:カレーと伝統食ですか? 圓尾:和の要素を足そうと思って、酒粕と味噌を入れてみたんです。そしたらめっちゃおいしくなって。 おみそはん:おいしそう! 味噌は私も入れますけど、酒粕はすごい。旨味がアップして、豆カレーとかにも合いそうですね。 圓尾:「日本の食材×カレー」は面白いなと。そういう伝統食から一歩進んだ料理を最近は試行錯誤しています。 おみそはん:伝統食を継承しつつ、これからのスタンダードを。 圓尾:つくっていきたいですね。志は大きく。 |