スポーツ栄養士の仕事はアスリートの献立を考えるだけ? 答えはNO!----連載テーマである「スポーツ栄養学」についても教えてください。じつは「公認スポーツ栄養士」の誕生に、鈴木さんが深く関わっているそうですね。 鈴木:そうですね。日本のスポーツ栄養学は新しい分野で、2009年に「公認スポーツ栄養士」の資格がスタートしたんです。認定条件としては管理栄養士免許を持っていて、さらにスポーツ選手への栄養サポートなどの経験がある人、という取り決めをしています。 ――具体的にはどんなお仕事をされているのでしょうか? 水野:スポーツ栄養士というと、一般的には、アスリートの1日3食の献立を考えてくれる人ってイメージが強いかもしれないですね。 鈴木:そう、調理師と混同されている人も多いですよね。もちろん食事の内容も考えるけど、それだけじゃない。 水野:私の理解では、スポーツ栄養士は「からだをつくる」ことに対して、長期的な視点に立って、食と栄養をマネジメントする人なんです。食物が体内で消化され、栄養素として吸収されるにはどれくらいの時間がかかるのか、吸収された栄養素がどう使われて、どんなふうにからだの素になっていくのかってところまで、分子レベルで考えている。 だから、食べる内容はもちろんだけど、食事のタイミングだったり、トレーニングの内容や時間だったり、睡眠時間だったり、生活全体を視野に入れて、選手にとってベストな状況をマネジメントするという感じです。 鈴木:そのとおり。どういうトレーニングをするから、それに対してどう食べるのか? なんですよね。だから、私が選手のサポートをするときは、その人のライフスタイルをすべて聞き出しますよ。 たとえば、12時に昼ごはんを食べて、13時半から練習を始めるなら、「食後1時間で運動するのは、からだに有効ではないので、生活の時間を変えませんか?」と提案します。もし13時試合開始だったら、そこから逆算して当日や前日の生活スケジュールをすべて設定する。 ----そこまで細かく、長いタームで考えているんですね。 鈴木:それがスポーツ栄養士の仕事なんですよ。日本のスポーツ栄養士は、日本栄養士会だけじゃなく、日本体育協会との共同認定資格だから、スポーツ分野からも認められているんですね。これは世界でも珍しくて、画期的な制度だと言われています。 「栄養士に見てもらう=自由がない食生活」は、大きな誤り----素人的な質問ですが、スポーツ栄養学って、アスリートにとても効果がありそうな反面、いろいろ食事制限されて大変そうというイメージもあります。 鈴木:スポーツ栄養士のサポート経験がない選手も、そう思っている人は多いみたいですね。私がサポートしているパラリンピックの選手が、「毎日あれ食べろ、これ食べろと強制されるんでしょ?」と聞かれたそうなんですよ。食事制限なんて選手のストレスになるようなこと、絶対にさせないのに。 --そうなんですね、失礼しました。かなり誤解をしていました。 鈴木:その選手は「そんなこと全然ないよ。意識もからだもすごく変わったよ」と返しているらしいけどね。もちろん生活の提案はさせていただきますが、選手のライフスタイルをねじ曲げて、ストレスを与えてまで何かを食べろとは絶対に言わないんです。それはからだにとってプラスにはならないから。 例えば、朝食を食べない選手がいたとして、どうしても朝に時間がとれないのなら、コンビニでヨーグルトと野菜ジュースだけ買って食べてみない? とか、その人のライフスタイルでできる範囲での提案をしています。 水野:私もストレスがない方法で楽しみつつ、体のことを考えながら食事する方法を見つけるのが栄養学だと思っています。だって、私もそうするために学び始めたから。 鈴木:本当に、変なイメージを払拭したいよね(笑)。でも、実際にサポートを受けた選手は「ここまでしてくれるんだ!」と驚くみたい。最初は半信半疑だった人も心を開いて、疑問や悩んでいることをどんどん質問してくれますよ。スポーツ栄養士に関わった選手はラッキーだと思う。ライフスタイルに合わせて食と栄養を考えることは、競技に関係なく、一生使える知識だから。 水野:「スポーツ」ってあるけど、誰にも当てはまりますよね。外回りの営業さん、座り仕事の事務の人、夜勤の工事現場の人など、それぞれのライフスタイルに合わせてスポーツ栄養学は応用できるから。 要はからだを整えて、普段の生活をより良くする、プラスアルファを作り出すための栄養学がスポーツ栄養学。それは人が一生健康に生きていくために、とても必要なものだと私は考えています。 『北京オリンピック』の女子ソフトボール、金メダルの奇跡。その裏には......----ちなみに過去に、スポーツ栄養士がついて、効果的だったと言われている事例はありますか? 鈴木:私がサポートしたチームですが、2008年の『北京オリンピック』で金メダルを取った女子ソフトボール日本代表チームは、栄養管理の成果がプラスになったと評価されていますね。その後のスポーツ栄養学の発展にも大きな影響がありました。 水野:あのアメリカに勝った決勝戦の前日にも、日本代表は朝と夕方に連続で2試合戦っているんですよ。すべての試合でピッチャーの上野さんが投げられていて、とても不利な状況で。 私自身、ソフトボールが大好きで優勝したときにすごく感動したんですけど、志保子先生がチームに帯同されていたので、後でどういう栄養サポートが行われていたかを聞いて、さらに心を打たれたんです。 |