近年、生活習慣病の予防に役立つ食品として牛乳が注目を集めはじめていること、ご存知でしたか? 牛乳に豊富に含まれる栄養素「カリウム」の効果が見直されはじめたことが、その背景にあるようです。医学博士で、生活習慣病予防研究センター代表を務める岡山明先生にお話をうかがいました。
寿命の延長効果がわかっている栄養素はたった2つ。その1つがカリウム----厚生労働省による人口動態統計(2015年)によれば、三大生活習慣病(がん、心疾患、脳卒中)が日本人の死因に占める割合は、合わせて50%を超えています。心疾患、脳卒中などを専門とする岡山先生は、状況をどのように見ていらっしゃいますか。 岡山:がんと心疾患については、長年増加の一途をたどりつづけています。ところが脳卒中などの脳血管疾患は、1970年代ころまで死因の第1位から急激に減少し、いまは4位にまで下がっています。 これは減塩食などの高血圧対策の成果によるところが大きいのですが、すでに従来の取り組みで改善できる範囲の限界に達しており、最近は減少が頭打ちになってきています。そこで、脳卒中などの脳血管疾患の予防に役立つ栄養素は何かということが、あらためて注目されているんです。 ----ずばり、その栄養素とはなんでしょうか。 岡山:カリウムです。これまでは塩分だけが着目されてきましたが、じつはカリウムには食塩に含まれるナトリウムと拮抗作用があり、血圧を下げる作用があるんです。 すなわち、ナトリウムの摂取量が少ない人ほど脳卒中になりにくく、長生きする傾向がある。いっぽうで、カリウムの摂取量が多い人も脳卒中になりにくく、長生きする傾向がある。そんな研究結果が出ているんです。 ----それは最近わかったことなんですか? 岡山:昔からわかっていたのですが、注目されていなかったんです。でも、人間のからだを構成する要素において、カリウムは約100g、ナトリウムは約30g 。カリウムのほうが多いんですね。肥料の3要素でも窒素、リン酸、カリウムといわれているように、カリウムは動植物が育つのに必須の栄養素のひとつなんです。 だから、医師から指導を受けているなど特別な条件下でない限り、カリウムをとることがからだに悪影響を及ぼすことはありません。カリウムは、排泄されるときにナトリウムも一緒に排泄してくれる、つまり、塩分を減らすことと同じ作用もあります。 こうした背景から、最近「ナトカリ比」という概念が注目されはじめているんです。1日に摂取するナトリウムの量を減らし、代わりにカリウムの量を増やすことが、生活習慣病、特に脳卒中、心筋梗塞などの循環器疾患のリスクを下げることに有効だという考え方です。 カリウムを効率的にとるのに効果的な食品、それは牛乳----1日にどのくらいカリウムをとればいいのでしょうか。 岡山:WHO(世界保健機関)のガイドラインでは3.5gが推奨されていますが、日本の栄養摂取基準では、15歳以上の男女平均で2.8gが目標量です。しかし、いまの日本人の平均摂取量は1日に2g強。つまり現状から1gほど増やすことが目標になりますね。 ----1gといっても、なかなかイメージが湧きにくいですね。 岡山:たとえば、カリウムは野菜に比較的多く含まれますが、1gのカリウムをすべて野菜でとろうとすると、500gほど多く食べなければなりません。厚生労働省が示している野菜の摂取量の目標は1日350g。それさえ達成されていないのに、プラス500gは現実的ではないですよね。他には、肉にも魚にもカリウムは含まれていますが、エネルギーも一緒にとってしまうので、必要量をとるのが難しいんです。 そのなかで最近注目度が高まってきているのが牛乳です。牛乳の場合、200ccあたり、だいたい0.3gのカリウムがとれるので、コップ1杯で足りない1gの3割を補える計算になります。実際に、牛乳と脳卒中との関係を調べた研究では予防効果があることもわかっています。 次のページ |