アジア人はナトリウム過多、カリウム不足傾向。原因は食文化にあった----チーズやヨーグルトなどの乳製品や、低脂肪乳にも、牛乳と同じような効果は期待できますか? 岡山:よく牛乳は脂肪が多いから太りやすいとかいわれますが、牛乳・乳製品のなかでも牛乳とヨーグルトは、重さあたりのカロリー、すなわちエネルギー密度が低いことが特徴で、こうした食品は肥満が起こりにくいんですよ。低脂肪乳にも、カリウムはきちんと含まれています。 チーズの場合はエネルギー密度が上がり、製造過程で塩分が入るので、ナトカリ比では牛乳やヨーグルトに劣りますが、循環器疾患のリスクを高めるわけではありません。 ----日本人のカリウム摂取量は、諸外国と比べるとどうですか。 岡山:欧米人と比べると、日本人は塩分の摂取量が多い一方、カリウムが少ないです。そこでデータを見てみると、日本人は牛乳・乳製品の摂取量が少ないんですね。これは中国や韓国も同様の傾向があります。東アジアでは主に塩で味つけをするのに対して、欧米ではクリームなどの乳製品でコクを出し、味を整えることも多いからなんです。 ----そういった文化的背景もあるんですね。 岡山:特に日本の40〜50代は、牛乳を飲む習慣があまりありません。原因は、「牛乳に含まれる飽和脂肪が動脈硬化のリスクを上げ、心筋梗塞などの虚血性心疾患につながるかもしれない」という説が、過去にあったことだと思います。 しかし、最新の国内外の研究を分析してみると、牛乳が虚血性心疾患に与える影響はニュートラル、もしくは若干予防の方向に働くことがわかっています。糖尿病に対しても、予防効果があるというデータが出ています。「飽和脂肪」という特定の栄養素だけに着目するのではなく、牛乳をいろいろな栄養素からなる食品としての総合的な作用も踏まえて評価していくべきですね。 主要栄養素10種以上。ミネラル、ビタミン、たんぱく質......すぐれた栄養源として見直す価値あり----40〜50代についての話がありましたが、若い人はどうですか? 岡山:義務教育が終わると飲まなくなる人が多いようですね。牛乳の摂取量は、中学校を卒業する年齢で急激に下がり、高齢になってくるとまた少し増える。そのあいだは格段に少ないんです。学校給食で牛乳が出るあいだは摂取量が安定しますが、その後も継続して飲んでもらうための環境が整備されていないことが問題だと思います。 ----牛乳はカルシウムやたんぱく質の源として、成長期に飲む印象が強いですよね。 岡山:そうですね。でも、牛乳はエネルギー密度が低いながら、含まれる主要栄養素は10種以上。カルシウムやカリウムをはじめとしたミネラルのほか、複数のビタミン、たんぱく質など、人に必要な栄養素が意外に多く含まれています。普段の食事のなかで牛乳をとることで、栄養バランスも良くなります。 「リービッヒの最小律」という言葉を聞いたことがありますか? 健康状態は、人が必要な栄養素のうち、摂取量がもっとも少ないものにのみ影響されるという説です。つまり、極端に足りていない栄養素が1つでもあると、その他の栄養素をたくさん摂取しても使いきれないということです。牛乳はどこでも買えて、手軽に飲める効果的な栄養源として、食事のなかでぜひ有効活用してほしいですね。 ----恥ずかしながら、牛乳がそこまですぐれた栄養源だとは知りませんでした。 岡山:こういう話をすると、積極的に取り入れてくれる方も多いんです。大人向けの栄養補給用食品として、牛乳・乳製品の新しいとり方や商品がもっと広まって、生活習慣病のリスクが少しでも下がると、医師としては嬉しいですね。 インフォメーション 一般社団法人Jミルク |