女性は妊娠するとからだの変化にともない、妊娠前とは必要となるエネルギーと栄養素も変わってきます。また、自分の食べたものが赤ちゃんの発育につながる「妊娠〜出産〜授乳期」は、食品の成分や栄養に敏感になる人も多いのではないでしょうか。
妊産婦さんの強い味方、管理栄養士ってどんな人たち?----千代田保健所の管理栄養士さんは、どのように妊産婦さんの食生活をサポートされているのでしょうか。 門口:千代田区では、妊娠中期の方を対象に「まま・ぱぱ学級(食生活編)」を定期的に開催しています。そこで妊娠期の栄養や気をつけなければいけない食品の扱い方、食生活と栄養のポイントについてお話ししています。 産後は3〜4か月児健診のときに離乳食に関するアドバイスを行い、それ以外にも希望者の方にアレルギー相談や離乳食講習会などを開催しています。電話でも栄養相談を受けつけているんですよ。 ----管理栄養士さんにいつでも電話で相談できるというのは、ママにとって助かりますね。妊産婦さんたちから寄せられる質問で多いのはどんなことですか? 安達:千代田区は、BMI(体重と身長から肥満度を示す指数)でいうと「痩せ型」の妊婦さんが多く、妊娠中にダイエットなどの体重管理が必要な方はあまりいません。にもかかわらず、「どうしたら太り過ぎないで済みますか」「産後すぐに体重を戻せますか」といった質問が多いんです。産後は授乳などで自然と体重が落ちるので、無理なダイエットはしないようにというお話はしています。 井上:妊娠中は、自分の体格に合わせて適切に体重を増やしていく必要があるので、逆三角形のかたちをした「食事バランスガイド」に沿って主食の量や栄養バランスを気にしていただくことは大切ですね。 巷にあふれる根拠のない「栄養のうわさ」はどう対処すればいい?安達:バランスの良い食事って、頭ではわかっているけれど実践するのはなかなかむずかしいのかなと。妊娠中に必要な栄養素についても混乱されている方が多く、「カルシウムをたくさんとらなきゃいけないと聞いたのですが、どうなんですか?」といったご質問も多いんです。 井上:カルシウムの摂取量については、妊娠中は腸管からのカルシウム吸収率が増加するため通常どおりで問題ないのですが、普段から乳製品をあまりとらない、そもそも足りていない方も多いので、これを機に増やしましょうというアドバイスをすることはあります。 ----最近は、逆に「牛乳は飲まないほうがいい」という説もあるそうですね。 井上:そういう話も流布しているようですが、牛乳などの乳製品のカルシウムは、体内でもっとも吸収されやすく、効率的にとれるのでおすすめしています。どうしても牛乳が苦手な方には、小魚、青菜類、大豆製品など別の食品からでも摂取できるというお話はしています。 安達:まれに、マクロビオティック(玄米を主食、野菜や漬物や乾物などを副食とする食事法)などをやられていて、お子さんにお肉や卵、乳製品などを食べさせない方もいます。 あまりに極端で偏った食事だと、子どもの成長に必要な栄養素が足りなくなってしまうので、そのような場合には動物性食品もとり入れるように指導することもあります。 井上:牛乳のかわりに豆乳を飲んでいるという方もいらっしゃいますね。ただ、見た目は似ていても栄養成分はまるで違うので、豆乳だけではカルシウムが十分にとれるわけではありません。あとは、野菜をスムージーでとる方もいらっしゃいますが、よく噛んで食べることはお子さんの咀嚼力をつけたり顎の発達のためにも大切なので、基本は食材や料理として食べるようにお話ししています。 「育児の常識」は時代によってどんどん変化している----いまのお話だけでも、妊娠・出産・育児にまつわる栄養の情報が錯綜していることが十分伺えますね。「赤ちゃんのお風呂上がりに白湯を飲ませる・飲ませない」など、祖父母とママ・パパ世代の間でも情報の差が生まれていると聞きます。 安達:そもそも「白湯(水を沸かしただけの何も入れていないお湯)って何?」という若い人も多いですよね。でも、昔といまの違いでいえば、妊娠中よりも産後のほうが大きいかもしれません。 井上:白湯に関しては、母乳やミルクでだいたいの水分補給はできているのですが、乾燥しやすい季節や夏場、お風呂あがり、さらに発熱や下痢の際には水分が不足しやすいので、補給が必要な場合もあります。 安達:ほかにも「果汁を飲ませていいのか? いけないのか?」といった質問も多いですね。10年ほど前までは、生後3か月ごろから果汁をあげて、母乳やミルク以外の味やスプーンに慣れさせるのが一般的でした。しかし、あまり早くに果汁を飲ませると授乳量が減ったり、離乳食の進みが悪くなったりすることがわかってきました。またお口の機能の発達面でも、スプーンの使用は離乳食の開始以降でよいとされています。 「おばあちゃんに聞いたんですが......」と言われると、私たちのほうもあまり強くは言えないので、「そういうことも言われていましたが、いまはこうです」と正しい情報を伝えるように心がけてはいます。こういったアドバイスは、厚生労働省が策定した「授乳・離乳の支援ガイド」にもとづいているんです。 |